高度不飽和脂肪酸(PUFA)蓄積


 ラビリンチュラ類は総じて脂肪酸を高濃度蓄積することで知られています。特に炭 素数が20個以上の高度不飽和脂肪酸(Poly-unsaturated fatty acid: PUFA)の割合が高 いことが特徴です。

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Aurantiochytrium limacinum ATCC MYA-1381.
DIC and fluorescent images of vegetative cells stained with nile red.
脂質を黄色に蛍光させる nile red で染色した栄養細胞の微分干渉像(左)と蛍光像(右)。
細胞内が油体でほとんど埋め尽くされている。


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PUFAs synthesized by labyrinthulomycetes.
ラビリンチュラ類が生合成する高度不飽和脂肪酸。


 特に,炭素数20,二重結合数5の Eicosapentaenoic acid(EPA)や,炭素数22,二重結合数6の Docosahexaenoic acid(DHA)は,以下のような効果があるとされています。

 * 血小板を凝集させる物質の生成を抑制させる
 * 血管をつまらせない(抗血栓)
 * 血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減少させる
 * アレルギー症や炎症の改善

 これらの特徴から,EPA は中性脂肪を下げる薬として認められています。

 さらに,DHA は脳や視覚の機能に関係していると考えられており,乳児の粉ミルクや多くの食品に添加されたり,サプリメントとしても商品化されています(末尾のリンク参照)。

 これらの高度不飽和脂肪酸は,青背の魚に多く含まれることが知られており,「魚を食べると血液がサラサラになる」「アタマが良くなる」という ようなことが言われるのはそのためです。

 イワシなどからとられた魚油を精製して EPA,DHA を得ている場合が多いのが現状です。しかし,魚類は自分の体内では十分な量の高度不飽和脂肪酸を合成することができないことも知られています。つまり,魚 類も我々と同じように食物から高度不飽和脂肪酸を得て蓄積しているのです。実際に,養殖中の稚魚などに高度不飽和脂肪酸を餌に添加すると,生存率が飛躍的 に上がることが知られており,魚類にとっても重要であることは明らかです。

 では,つまるところ,環境中のどの生物が高度不飽和脂肪酸を作り出しているのでしょうか? 残念ながらあまり良くわかっていません。実はラビリンチュラ 類が大きな役割を果たしている可能性があります。これについては,現在研究が進んでいるところです。


<ラビリンチュラ類が海洋生態系にお ける役割>へのリンク


 このように,ラビリンチュラ類は高度不飽和脂肪酸を高蓄積するので,この生合成のしくみについても,研究が進んでいるところです。

 その中で明らかになってきたおもしろいこととして,ラビリンチュラ類には脂肪酸合成の経路が異なる生物が混在していることがわかってきています。一方は ポリケチド合成酵素(PKS)による合成経路で,脂肪 酸の炭素鎖を伸長させる酵素や不飽和化させる酵素が集合した装置となって,速やかに最終産物へ と変化させる合成経路です。もう一方は,前駆体を一つ一つの酵素によって変化させて,徐々に最終産物へと導く合成経路です。これらの細かなしくみも,ゲノ ム解析などによってより詳細に理解され,今後必要な脂肪酸だけを合成するようなラビリンチュラ類などがあらわれて,私たちの生活にも直接的に関係してくる かもしれません。

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Aurantiochytrium limacinum のガスクロマトグラム

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Aurantiochytrium, Oblongichytrium および Schizochytrium の脂肪酸組成比較



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