Ecology: 海洋生態系における役割
ラビリンチュラ類は葉緑体を持たず,生育環境中の有機物を分解吸収して栄養摂取を行っている。そのような生き様から,系統的には真菌類(カビ,キノコな
ど)とは大きく異なっていますが,菌様原生生物と表現されることがあります。実際にセルラーゼ活性が見られる種も存在し(e.g., Bremer
& Talbot
1995),ボスロソームから伸長した外質ネットで,酵素の分泌と分解された物質の吸収をしていると考えられています(Coleman &
Vestal 1987)。
しかし,海洋の生態系では,分解者として着目されてきたのは原核生物であるバクテリアがほとんどです。死骸や陸源の有機
物などをバクテリアが分解して増殖し,これを小型の原生生物である鞭毛虫などが捕食し,さらにこれをカイアシ類などの動物プランクトンが捕食して,生食連
鎖に組み込まれていくという「微生物ループ」の考え方が一般に受け入れられています。
ラビリンチュラ類(特にヤブレツボカビ類)のバイオマスは,同じ海域に生息するバクテリアの3-40%に達するという報告があります(Kimura
et al. 1999)。しかし,食物連鎖の上位に与える影響は,このバイオマスの比率だけで理解することはできません。
生物は食べたものをすべて利用できず,代謝や排泄などで約90%を環境中に捨てています。つまり食物連鎖の段階が一つ進むにつれてバイオマスは10%に
減じることになるのです。例えば,バクテリアのバイオマスが「100」だった場合でも,バクテリアは原生生物を経て動物プランクトンに捕食されるため,2
段階を経た結果100分の1となり,「1」に相当する動物プランクトンのバイオマスに変換されることになります。一方,ラビリンチュラ類のバイオマスが
「10」の場合,その大きさは原生生物と同等であるため,直接に動物プランクトンに捕食されるとすれば,1段階を経ただけであり,10分の1になった
「1」の動物プランクトンのバイオマスに変換されることになります。もちろん,実際の海洋生態系はこのように単純なものではありませんが,ラビリンチュラ
類が魚類などに与える生態的な影響は,無視できないレベルとなっている可能性について考えられるようになっています。
「細胞計測の方法」へのリンク <Link to cell
counting>
「FISH による特異的染色法」へのリンク <Link to FISH>