Position in eukaryotes: 真核生物の中での位置づけと高次分類


 分子系統解析の結果の蓄積から,全真核生物はおおまかに8つほどの大系統群から構成されていることがわかってきました。

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Baldauf (2003) in Science 300 (5626): 1703-1706

 ストラメノパイル類には,クロロフィルa +cの黄色の葉緑体をもつ,コンブ,ワカメなどの褐藻類や,水圏の重要な一次生産者である珪藻類,葉緑体をもたない卵菌類なども含まれています。この生物 群は遊走細胞の2本の鞭毛のうち運動性のある前鞭毛に,3部構成のマスティゴネマと呼ばれる構造があることで特徴づけられています。ラビリンチュラ類の遊 走細胞にもマスティゴネマを観察することができることは,Amon & Perkins (1968) などでも報告があります。

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マスティゴネマの役割(flash animation)
動画ファイルを以下からダウンロードください。



(参考:マスティ ゴネマを構成するタンパク質へのリンク

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ラビリンチュラ類の Aurantiochytrium limacinum の遊走細胞の前鞭毛に見られるマスティゴネマ。高倍率の右図では,基部,軸部,先端毛の3部構造となっていることが観察できる。
(from Honda et al. 1998)



 現在のところ,上記のような8大系統群をどのような階級で扱うのかなど,意見が分かれていることもあって,真核生物の高次分類体系は混沌としています。

 私は,ストラメノパイル類を正式な分類群ではなく一般名(stramenopiles)として用いて,ラビリンチュラ類については,おそらく異論が少な い 綱のレベルの分類群(Class Labyrinthulomycetes)として表現することが,現時点では適当だろうと考えています。

 実際,18S rRNA 遺伝子系統樹では,綱のレベルで分類されている生物が非常によくまとまった系統群を形成しています。一方,それぞれの綱の分岐順はあまり明確であるとは言 えず,より上位の「門」のような階級をどのように区分けするかについては,まだ問題が残っているのが現状だと思います。ラビリンチュラ門(Phylum (Division) Labyrinthulomycota)として扱われたり,ビコソエカ類と一緒にサゲニスタ門(Sagenista)に位置づけられたりしています。

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ストラメノパイル生物の 18S rRNA 遺伝子の最尤系統樹。
各分岐の数値は近隣結合法によるブートストラップ値。
(see also Honda et al. 1999, Tsui et al. 2009)


 ラビリンチュラ綱の中の分類体系についても問題があります。

 「目」については,ラビリンチュラ綱を2つの目に分割し,ラビリンチュラ目には Labyrinthula 属だけを分類し,その他の属はすべてヤブレツボカビ目(Order Thraustochytriales)に分類するという体系が一般的です。

 「科」については,Labyrinthula 属だけが分類されるラビリンチュラ科(Family Labyrinthulaceae)と,その他の属がすべて分類されるヤブレツボカビ科(Family Thraustochytriaceae)が提唱されています。

 しかし,Tsui et al. (2009) によって,ラビリンチュラ菌綱が大きく4つの系統群から構成されることが示されました。これらを目や科といった分類階級で認識するのかどうかについては, 今後の研究の進展によって,綱内の包括的な比較が可能となった時に,改めて示されることになると思います。

stramenopiles ストラメノパイル類
Class Labyrinthulomycetes ラビリンチュラ菌綱
Order Labyrinthulales ラビリンチュラ目
Family Labyrinthulaceae ラビリンチュラ科
Order Thraustochytriales
Family Thraustochytriaceae ヤブレツボカビ科


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