Characteristics of the labyrinthulomycetes


ラビリンチュラ類を特徴づける構造

ボスロソーム(bothrosome)と外質ネット(ectoplasmic network)

 透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると,細胞の表面に複雑な膜構造が観察され,電子密度の高 い領域が仕切りとなるように,ここから原形質膜に包まれた外質(ectoplasm)を展開している。この特殊な膜状小器官はボスロソームと名付けられており,全生物でもラビリンチュラ類にしか見られない特徴として認識されている。

images/aplanochytrium_sp_bothrosome_a_100.jpg
The bothrosome at the surface of the cell.
(Aplanochytrium sp.  SEK 349)
外質ネットを伸長する器官であるボスロソーム。
複雑な膜構造と電子密度の高い細胞膜周辺の構造から構成される。

 ただし,外質内にはミトコンドリアなどのオルガネラだけでなく,リボソームも認められない特殊な領域となっており,基物に付着して表面積を増やし,酵素の分泌と分解された物質の吸収をしていると考えられている(Coleman & Vestal 1987)。

 狭義のラビリンチュラ類(Labyrinthula 属)では,群体を形成する多数の細胞が網状になった外質ネット(ectoplasmic network)を共有しており,それぞれの細胞はこれに包まれている。1つの細胞には20個以上の多数のボスロソームが観察されることがある。また細胞 は外質内にあるアクチンとミオシンが関与する滑走運動をすることが示されている(Dietz & Schnetter 1999; Nakatsuji & Bell 1980)。

images/Labyrinthula_sp_an_low_mag_100.jpg  images/labyrinthula_sp_2527b1_s3_100.jpg
Labyrinthula spp.

 一方,その他の属はヤブレツボカビ類として認識されており,細胞は外質には包まれておらず,それぞれの細胞には1つのボスロソームがあり,そこから放射状に細い外質ネットを展開する。Aplanochytrium 属では,運動性が認められ(Leander et al. 2004),Labyrinthula 属と同様の運動様式をもつ可能性がある。

images/Aurantiochytrium_limacinum_net_zoo_100.jpg
Aurantiochytrium limacinum ATCC MYA-1381.
Colony of vegetative cells with ectoplasmic nets and zoospore with heterokont flagella (upper light).
栄養細胞が集合した群体。四方に外質ネットを伸長している様子が観察できる。右上は2本の鞭毛をもつ遊走細胞。



硫酸多糖類の鱗片状の外被構造

 細胞外被(細胞壁)は,非セルロース,非キチン質の硫酸多糖類の薄板状鱗片が重なり合った構造をもつ。硫酸多糖類を細胞壁としてもつ。あまり多くの調査結果は知られていないが,Aplanochytrium 属では主成分となるのはフコースで,他のヤブレツボカビ類ではL-ガラクトースであることが知られている(Bahnweg & Jackle 1986; Darley et al. 1973, Ulken et al. 1985)。

images/sugar_composition_100.jpg
細胞壁の糖組成

images/aplanochytrium_sp_scale_in_golgi_100.jpg 
ゴルジ体で形成される鱗片


生殖に関する知見

 有性生殖については,Labyrinthula vitellina と 同定された生物の遊走細胞形成時において,減数分裂の第一分裂の特徴であるシナプトネマ構造が観察されていることのみが知られている。8つの遊走細胞が放 出されるが,配偶子の合体のような現象は観察されたことがない(Perkins & Amon 1969; Moens & Perkins 1969)。

 1つの核の中に9本のシナプトネマ構造が観察されることから,Labyrinthula vitellina の半数体の染色体数は9本とされている。ヤブレツボカビ類では,ゲノムDNAのパルスフィールド電気泳動による解析から,Thraustochytrium 属の4株の半数対の染色体数は,それぞれ8〜17本で,ゲノムサイズは9.93〜12.9 Mbと報告されている(Anbu et al. 2007)。

 無性生殖の様式には,遊走細胞,不動胞子,アメーバ細胞などが知られ,細胞増殖の様式でも,栄養細胞の2分裂や,原基体形成などが知られており,これらの特徴は,属や種の分類形質にもなっている。

images/life_history_100.jpg
各属にみられる生活史

images/thraustochytrium_sp_life_history_100.jpg
Thraustochytrium sp. の生活史。
遊走細胞を放出した後に原基体(proliferous body)を残す種では,このように原基体が発達して新たな栄養細胞を経て,遊走子嚢になることが知られている。


 遊走細胞は,細胞の側方から前後に2本 の鞭毛を生じ,前鞭毛はその表面に3部構成の管状マスティゴネマをもつ羽型,後鞭毛は装飾のないむち型をしている,典型的なストラメノパイル類の形態を示す。Labyrinthula 属の遊走細胞では,後鞭毛の基部付近には眼点様構造が見ら れるが,ヤブレツボカビ類では,そのような構造は見られない。