広義の Ulkenia 属の分類学的再編成
遊走細胞を形成する前段階でアメーバ細胞に変体する形質をもつヤブレツボカビ類は,Gaertner (1977) によって
Ulkenia 属としてまとめられました。タイプ種はそれまでは
Thraustochytrium visurgense とされた種で,
Ulkenia 属に移され,
Ulknenia visurgensis と新組合せとして変更されました。また,同様に
Thraustochytrium amoeboideum も
Ulkenia amoeboidea と変更されました。
さらに同じ論文の中で,Gaertner (1977) は,以下3種の新種記載を行っています:
Ulkenia profunda,
Ulkenia radiata,
Ulkenia sarkariana。また,Raghukumar (1977) は6つ目の種として,
Ulkenia minuta を記載しました。
Ulkenia sensu lato
Ulknenia visurgensis
Ulkenia amoeboidea
Ulkenia profunda
Ulkenia radiata
Ulkenia sarkariana
Ulkenia minuta
Ulkenia visurgensis の Ex-type 株は ATCC (ATCC 28208) に,また
Ulkenia profunda
の Ex-type 株も KMPB (KMPB N 3077a) に保存され,18S rDNA は Honda et al. (1999)
によって配列決定されています。しかし,両方の株は失われたようで,現在では両機関ともに分譲を停止しています。なお,微量ながら抽出したゲノム
DNA は甲南大学で保存されています。
Yokoyama et al. (2007) は,
Ulkenia 属の分類学的な妥当性を検討するために,アメーバ細胞を放出する株を野外サンプリングを行って収集しました。これらの分子系統解析から,
Ulkenia 属と同定される生物は4つの系統群に分かれ位置し,それぞれは形態形質(
外質ネット,
遊走細胞など),化学分類学的形質(
脂肪酸組成,
カロテノイド組成)によって区別することが可能でした。
そこで,以下の分類学的処置を行いました。
Ulkenia visurgensis と
Ulkenia profunda のそれぞれの Ex-type 株 と
Ulkenia amoeboidea と同定された NBRC 104106 株,さらに
Japonochytrium sp. とされている ATCC 28207 株は単系統群を形成したので,これらを
Ulkenia 属としました。
Ulkenia radiata と同定された NBRC 104107 は別系統群となったので,新属
Botryochytrium を設立し,
Botryochytrium radiatum としました。
Ulkenia sarkariana と同定された NBRC 104108 は別系統群となったので,新属
Parietichytrium を設立し,
Parietichytrium sarkarianum としました。
Ulkenia minuta と同定された NBRC 102975 は別系統群となったので,新属
Sicyoidochytrium を設立し,
Sicyoidochytrium minutum としました。
ただし,新属とした3種および
Ulkenia amoeboidea については,Ex-type 株でなく,基準産地から分離された株でもなく,新たに同定された株を用いた解析のため,分類学的な処置が完了したとは言えません。今後,それぞれの種と同定される株が新たに分離された場合には,慎重に比較を行っていく必要があると思います。